更新日:2024年12月28日

最優秀賞

どんな困難にも負けず

                             ホーリネス・アンジュ・イギラネザ

 

1993年、東アフリカのブルンジのことである。民主化の英雄メルキオール・ンダダエの死後、事態が悪化することは誰もがわかっていた。国全体が不安定になり、フツ族とツチ族という2大民族の対立が、不安の源となることが予想されていた。ツチ族は、各地でフツ族を追いかけ、殺し、そればかりでなく、フツ族からすべてを奪っていった。ブジュンブラ地方にあるムゴンゴ・マンガ(ムゴンゴとして知られる地域)では、路上や隣近所で、「彼らはどこにいる?」 という声が聞こえていた。

ここから物語は始まる。誰もフツ族狩りから逃れることはできないような危機的な状況下、フツ族の生活に容赦のないムゴンゴのツチ族地域で、ユーモアのセンスと思いやりの心を持ったツチ族が少なからずいた。ツチ族が多く住む地域を中心に、フツ族の人々の命が危険にさらされていた。しかし、その時、驚くべきことが起こった。政治的緊張のために多くのフツ族の命が失われたこのツチ族の地域で、このような出来事が起こるというのは異常なことであったから、こんなことが起こるなんて...と、その話を聞いた人たちの胸には今でも強く心に刻まれている。

ウムシンガンタヘというツチ族の有名な指導者が、アバシンガンタヘと呼ばれる他の指導者たちを率いて、彼自身がよく知らないフツ族の家族の避難所になったのです。その中で、彼が大事にしている行動指針は人命を救うことだったが、このような状況で彼がしたことは信じがたいことだった。もし彼が介入しなければ、この家族はあっという間に殺されてしまうことは分かっていた。そこでこのツチ族のリーダーは、あらゆる困難をはねのけて、追われているフツ族の家族を自分の家に連れてきて、そこを彼らの避難所にした。そして、彼のコミュニティでは誰も、彼がフツ族の家族を保護していることを知りませんでした。

数日後、政治的緊張と民族的憎悪の悲劇の中で、ツチ族のグループが、このリーダーはフツ族を保護しているという噂を耳にした。もちろん、彼はフツ族を憎み、殺すことや嫌がらせをすることへの意識を高めるために人々の手本となるべき人物です。さらに悪いことに、このリーダーはフツ族の家族をかくまっただけでなく、彼らの持ち物や家畜の世話を手伝ったのです。村の誰も、彼がそのようなことを請け負っていることを知りませんでした。なぜなら、その時代にはそんなことをしたら、自身の命を落とすことになるため、それは不可能だと思われていたからです。

時間が経つにつれて、フツ族の人々の生活はより一層苦しくなっていった。そんな中で、もしあなたがフツ族であれば、ツチ族に「私たちはみんなブルンジ人だ」とか「みんなで友達になろうよ」などとは言えません。このような憎しみに決着をつけるには、時はもうすでに遅すぎたのです。ツチ族の人たちは、もうフツ族の救世主でもなければ、富の番人でもないこのツチ族のリーダーに暴動を起こす準備をした。ツチ族の一団は、あまりの怒りと圧力でリーダーの家に向かった。目的は、かくまっているフツ族の家族を殺害し、そのリーダーに、なんてことをしているんだ?と詰め寄ることだった。
しかし、リーダーはどんなことがあってもこの家族を救うと決意していた。ツチ族の一団は、リーダーの屋敷に強引に入り込み、力ずくでフツ族の家族を連れ出そうとした。しかし、リーダーは「私の屍を越えてゆけ!お前たちは誰も私の家に入ることはできない。私の家に入るには私を殺してからだ。」と言った。

ツチ族の一団は、あまりの怒りと混迷を感じながらも、その場を立ち去った。彼らの目には狂気のように映ったこのツチ族のリーダーに対して、また戻って状況をさらに悪化させるほどまでやることには納得していなかったけれども、その時は一旦立ち去ることが彼らの唯一の選択肢だった。皆、恐怖のどん底に突き落とされたまま、そんな怒涛の一日が過ぎていった。このリーダーの家族はもちろん何も知らされていなかったし、ツチ族のコミュニティもどうしたらよいのか何もアイデアはなかった。そのため、このシナリオに隠された真実がわからないまま、次にどうするか、どうすればこのコミュニティから逃げられるかを考えながら、両者ともに複雑な状況であった。

この話を事件の中心に持ってきたのは、そのような時代にフツ族の家族は殺され、嫌がらせを受け、愛する人を失ったということをみなさんに思い出してもらいたいからだ。また、自分の命や愛する人のために、あまりの緊迫した地域から逃げ出した人もいた。そのような時代に、ツチ族のリーダーがフツ族の家族を救うということは、まるで反逆罪のようなものだった。一度ツチ族の手に落ちれば、ライオンの前に獲物が現れ、その面倒を見させるようなものだ。それは明らかに、彼らが確実にあなたの息の根を止めることができるということだ。

たとえ夜中でも、思慮深い心は、常に深く、さまざまな角度から批判的に考えていた。 「彼らが戻ってくる前に、他に移れる場所を確保しなければならない」。リーダーは、隠れているフツ族の家族に向かって、はっきりと言った。暴動が起きると、次に何が起こるかわからない。リーダーは、フツ族の家族を暴徒に引き渡さなければならないか、彼らと同じように死刑を宣告されるかだ。コミュニティを守るべきだという行動指針を持つ名だたるリーダーとして、彼はある計画を思いついた。「どこか緊迫していない別の地域へ行きなさい。状況が落ち着くまで、私があなたの物をすべて預かります。」と、願いをこめながら言った。彼は、人命を救うことは民族の対立よりもずっと重要で、そのような民族の違いが原因で、人の命が奪われるべきではないと考えた。その作戦はこうだ。夜中の1時に全員起床し、リーダーの子どもたちも一緒に、イサレ周辺のインボ地方へ向かう。安全のために、リーダーもこの生死をかけた旅に参加した。このことは、フツ族の家族の胸を打った。また、カモフラージュのために家畜を残していくように忠告したことも忘れてはならない。全てを持っていたら、誰が見ても逃げているのがわかるからだ、ということだった。

リーダーは、この家族が帰ってくるまで、約束通り全てを預かってくれた。彼らは、自分たちが不在の間、自分たち、や財産を大事に守ってくれたことに感謝してもしきれなかった。このリーダーの名の下に、何も傷つけられることはなかった。不在中ずっと、リーダーは牛も財産も全て自分のものだと、みんなに言っていたのだ。

しばらくして事態が落ち着き、この話が周囲に知られるようになると、人々はリーダーに、なぜ自分の民族ではないフツ族の家族の命を助けたのか?と尋ねた。彼はこう答えた。「フツ族の命を救ったのではない、人間の命を救ったのだ。」この話を聞いた人は皆、驚きました。彼が、血縁も仕事のつながりもない一家のために、自分の命を危険にさらし、自らの権力と特権を利用して人間として振る舞ったことは、このコミュニティの人々にとって信じがたいことだった。

自分が望む変化を作り出し、命を危険にさらすことは、正しいことをするための唯一の方法ではないかもしれません。でも、この行動は、たとえ彼がもう生きていなくても、彼の行為を多くの人に伝え、残すための素晴らしい行動だと思います。その家族や孫たちは、自分たちの命を救ってくれた彼をいつまでも讃えるだろうし、この話を聞いた人は、何十年経とうとも、このリーダーは彼らの心の中に生き続けることでしょう。私が書くことにしたウムシンガンタヘは、今、多くのツチ族、フツ族の家族の父親であり、祖父である。しかし、最も重要なのは、彼が私の祖父であることだ。そう、これは私自身の祖父の物語なのだ。彼の偉大な業績について書くことは、私の夢だ。この寛大な人が、命を落とすかもしれない危機的な状況の中でも、変化をもたらすためにどのように立ち向かっていったのかを、みんなに伝えること。それが、この時代、そしてこれからの世代をリードし、手本となるでしょう。肌の色、民族、言語、部族、氏族、その他のさまざまな違いは、私たちを分断するものではなく、私たちが共に多様性を祝うべきものなのです。そして、前向きな変わることができるようみんなが努力すれば、その先に変化をもたらすことができるのです。